Laboセミナー報告<12/15開催/講師:大坊 勝次氏>

平成27年12月15日(火)

大坊珈琲店・大坊勝次さんを講師にお迎えし、
第6回COFFEE WORKS LABOセミナーが開催されました。

2013年に惜しまれて閉店した東京南青山の【大坊珈琲店】。
38年間自家焙煎とネルドリップというスタイルを変えずに
珈琲を作り続けてきた大坊勝次さん。

今や東京のみならず、全国、そして世界にまで知れ渡る伝説のお店。
同じ時間を共有できるなんて夢のようです。

マスターから『ここでこうやって珈琲を淹れてくれることが奇跡』
と紹介を受けた大坊さん。
はにかみながら深々とお辞儀をする姿に背筋がピンと伸びました。

LABOにご来店された方に順々に大坊さんのコーヒーが振舞われました。
メニューにある5種類の濃度のブレンド、4番の25g50cc。
一番濃いコーヒーです。
「すごくしっかりなのに甘みが広がる!」
「苦味と甘みのバランスが素晴らしいね!」
とすでに参加の方々の心を奪う密度の濃い珈琲。

細く長くお湯を注ぐ右手は静止したまま、
ゆっくりと弧を描きながらネルを持つ左手以外は微動だにしない大坊さん。
目線はお湯の着地点をじっと見つめたまま、集中がこちらにも伝わってきます。
そこだけ時間が止まったような感覚に静まりかえる店内。
息をするのも忘れてしまいそうです。

決して大坊さんの集中を妨げることなく、
スムーズに無駄のないサポートをされる奥様の動きも
見ていてとても気持ちの良いものでした。
お二人の長い年月と絆を想像できるそのカウンターを見つめながら
『息ぴったり』とはこのことを言うんだな。と感心してしまいました。

参加者30名様分のコーヒーを点て終え
ほっとした表情の大坊さんに大きな拍手が沸き起こりました。
先ほどの真剣な表情とは打って変わって少年のような笑顔です。

次に先ほどより少しだけ軽めのコーヒー。
3番の20g100ccのブレンドです。
「まさか大坊さんのコーヒーを2杯も頂けるなんて!」
「しっかりとしたコクはそのままなのに軽やか!」と皆さん大満足のご様子。

後半は席に着いて大坊さんとのトークタイム。
質問に対して、きちんと考えを組み立ててからお話を始める大坊さんは
本当に真面目で誠実な方という印象を受けました。

焙煎についてのとても繊細なお話から始まり、
自分の目指す珈琲のイメージ、閉店したお店への思いなどたくさんのお話を伺うこと
ができました。
舞踏家の大野一雄さんのお話もとても興味深いものでした。

「浅煎りが流行になりつつあるということ、深煎りやネルドリップが少なくなってき
ていることについてはどう思いますか?」という質問には
「作る人も飲む人も、百人いればこだわりは百通り。
選択肢はたくさんある方がいい。珈琲は自由であるべきだ。」

「どうしてブレンドを一種類しか置かないのですか?」という質問には
「自分が好きなものを出すべき。
ニーズがあるから出す、というのは違うと感じたから。
客商売としてそれがいいのか悪いのかは分からないけれど(笑)」
と全ての質問に誠実にお答えいただきました。

最後に「大坊さんが一番大切にしていることはなんですか。」という質問。
「僕はちっぽけな1つの存在として、
その小さいことを受け入れ、大切にしたい。
そりゃあ見栄を張る時だってたまにはあるけれど、
どれだけ自分の存在に率直になれるかを常に思っている。」

熱いものが込み上げました。
『伝説』とまで言われるような存在になっても
大坊さんはブレずに『初心』。
自分の納得のいく珈琲を追い求め、常にお客様に自分の精一杯を提供する。
全てをさらけ出した珈琲に「私はこうです。あなたはどうですか?」
と問われているようです。

目まぐるしく変化していく世の中で、『変わらずにいる』ということは
強い意志を持っていないととても難しいことです。
そのブレない信念とストイックなまでのこだわりに
人は憧れと尊敬の念を抱くのでしょう。

自分の中の理想と一致する物を見つけ出すまで妥協はしない、
そうやって作り上げてきた空間に全ての想いを込めた一種類のブレンド。
濃度でお客様の好みに寄り添うスタンス。
全てにおいて貫き通す姿勢。
そんな『本物』のお店が
今はもうないのだと思うと残念でなりません。

「珈琲を飲むことは生きていく上でそんなに大切なことではないかもしれません。
しかし1人1人がじっくりと珈琲を飲める、珈琲でなくてもいい、自分とゆっくり向き合
える時間、そういう時間をわざわざ作っていける文化ができたらいいですね。」と素
敵な言葉もいただきました。

セミナーの最後はマスターから「今日夢が1つ叶った。」
「どうかまたどこか大坊さんの珈琲が飲める場所を!」と締めくくられました。

お土産に大坊さんの焙煎した珈琲豆もいただき、
(値段の付けようのない幻の珈琲!)
なんとも贅沢なセミナーとなりました。

継続は力なり。
年月と人と、強い信念のみが作り出せるこの伝説に、
そしてそこから見える景色に、
少しですが触れることができとても幸せなセミナーとなりました。

大坊さん、奥様、素敵な時間をありがとうございました!
参加していただいた皆様も本当にありがとうございました!

カブ